雑考集

考える葦は腐りかけが一番美味しい




特質としてのオタク、属性としてのオタク

もこっち とは 私の望む、オタク女子の理想像である。:ねここねのブロマガ - ブロマガ

 

タイトルから分かりますとおり、今日はオタクの話です。

ディープなオタクの人、ライトなオタクの人、ノーマルだがオタク気質のある人、ノーマルでオタク気質もない人、自分がどれだかわからない人等々、様々な人に読んでもらいたい記事内容となっています。

 

 

……とか書き出しで真剣味を煽っておきつつ、実は筆者は『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!(以下『わたモテ』)』を見たことがありません。見てないもので記事書くとかどうなのよ……とも思ったのですが、書きたいのは『わたモテ』についてではなく、一番上に貼ったリンクについてなのでそこはどうか見逃したってください。

 

本題に入りましょう。最上部に貼ったリンク記事内容を要約すると、

  1. 最近『わたモテ』が流行っている
  2. オタク女子主人公といえば『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の桐乃が思い浮かぶけど、あれは勉強も出来れば運動もできてモデルまでやってる→ハイスペックすぎて単にオタクの皮を被ってるだけの「イミテーションオタク」に見える
  3. 実際にいたらイタい、関わると苦労する、歪んだ性格を持ったタイプこそがオタクとして望ましい。そういう意味ではもこっち(『わたモテ』のヒロインである黒木智子のあだ名・愛称)こそ本物のオタク女子

というような内容になります。

 

リンク先の記事の筆者であるねここねさん好みのオタク女子に関しては正直どうでもいいのですが、この

  • 実際にいたらイタい
  • 関わると苦労する
  • 歪んだ性格を持っている

という指摘は、さすがにオタク女子に肩入れされている方だけあるなと思いました。

引用の2番を見てみましょう。この記事のテーマは簡単にいえば「もこっち礼賛」であり、その補強のため桐乃のような「イミテーションオタク」を対極に置く、というような構造になっています。

さすがに桐乃レベルのハイパースペックなオタクは現実にそう多くはいないでしょうが、オタクの人間的スペックの標準値が年を追うごとに上がってきているのは間違いないでしょう。

これは様々な要因があります。例えばステレオタイプなオタクの割合が減ってきていることや、オタクの人口自体が急増して「にわかオタク」と呼ばれたような人が増えたこと、あるいはオタク文化に対する社会の目や諒解が変わってきたことなども入るでしょう。

参考までに、80年台半ばのコミケの新聞記事を投稿された方のtogetterを載せておきます。

http://togetter.com/li/548537

ネクラな青年が殺到」「晴海で異様な風景」なんて言い方が平然となされていた時代があったのですね。有志によってこの記事のネタとなったコミケは第26回だと解明されていますが、当時参加サークル数2400、参加者数3万人だったものが、最新の第84回では参加サークル数35000、参加者数59万と、サークル数は15倍弱、参加者数は20倍弱にまで膨れ上がっています。今はさすがにこういった記事は書かれないでしょうね。

話がコミケに逸れたので本筋に戻りましょう。桐乃がなぜ「イミテーションオタク」に見えるかといえば、それは「オタク」という言葉が使われ始めてから長いこと、オタクたちは社会的に弱者の地位にあったからです(というか今でもわりとそう)。コミケのような同人イベントも、オタクたちがそういった弱者としてのルサンチマンを昇華させる場として発達してきた、という背景が少なからずあるはずです。

つまり桐乃のようなスペックの高いオタクはごく最近出現してきた、いわば「ニュータイプ」であり、元来オタクとはイタくて、関わると苦労して、歪んだ性格を持っていたものだったわけですね。ねここねさんが言うオタク女子の「真」とは、この元来からのオタクが持つアクの強さ、扱いづらさにあると考えていいでしょう。

 

この記事に対し、コメント欄には「オタクがどういうものだかよくわかっていない」「自分より酷い人間を美化して自分を正当化するタイプ」などなどどうしようもないコメントがゴロゴロ転がっています。

そもそもオタクがどういうものだか真の意味で分かっている人などそうそういません。なぜかといえば、先ほどの新聞記事のような時代はある程度ひとくくりに出来た「オタク」像が、年を追うごとに多様化してますます定義が難しくなっているからです。このことを踏まえずに「うんうん、この人はオタクのことをよく分かってるな」と簡単に納得してしまう人は、恐らく「オタクのことをよく分かっていること」に納得しているのではなく、「(自分を含めた)自分の知っているオタクのことをよく分かっていること」に納得しているのでしょう。

「自分より酷い人間を美化して自分を正当化」というのもよくわかりませんね。根本的にねここねさんがウソを書いているという前提に立たないとこの主張は正当性が成り立たないと思うのですが、はてさてどういった意図で書かれたものなのやら。

興味深かったのは「彼女にするなら」や「セック◯するなら」、あるいは「もこっちはオタクとしたって人間的にダメ」といった、もこっちを二人称的にとらえたコメントが多かった点です。

これはどういうことかといえば、もこっちを自分にとっての第二者の立場において考えているということですね。つまり、自分にとって関係をもつ人間として想像している

ちょっと待ってください、そもそも「ニュータイプ」でない、オーソドックスなオタクたちって「ネクラ」とか「異様」って言われてませんでしたっけ……? なんのことだかわからないという方は、この記事の真ん中辺りにスクロールして、新聞記事へのリンクを参照してください。

どうやらそういった人たちも「ニュータイプ」の兆しが見えているのかもしれません。というより、桐乃のようなハイスペックこそないにしても、オタクであることが特質ではなく、属性の1つでしかないような人たちはもはや「ニュータイプ」でなく、むしろ現代オタクのオーソドックスである、ということなのでしょう。この辺りはFLASHに始まりYoutubeニコニコ動画で爆発的に増えたUGCの広がりも関わっているのでしょうか。

 

コメント欄には「もこっちはぼっちであってオタクではない」「家事全般できてポジティブなこなた(『らき☆すた』のヒロイン)が一番」というようなものもありましたが、これもかなり鋭くかつ興味深い指摘です。旧来「オタク」と「ぼっち」は多く重なっていたものが、時代の変遷によって分離し、それが今も現在進行形で続いている、ということでしょう。だから対人関係の能力が欠如している「ぼっち」であるもこっちはダメ、オタクな趣味はあっても対人関係の能力は欠如していないこなたはいい、となる。同じ趣味で繋がる関係だと思われがちのオタクが、今は同じ趣味があっても「ぼっち」である限り繋がれなくなっているのです。

とはいえ、旧来のオーソドックスから生じた現代のオーソドックスがそれを批判する構図は見ていて複雑なものがあります。同じ「オタク」という言葉で語られ、一見趣味嗜好を共有できるかのように見えながら、世代によっては普通のジェネレーションギャップと同等の断絶が存在するのかな、とか。同じ言葉でレッテルを貼られる嫌悪もあるのかもしれませんが。旧オーソドックスにしても現オーソドックスにしても、オタクたちの中身の変化ほど周囲の視線の変化は速くないのだから、そこで世代交代かのごとく旧オーソドックスを完全否定しても仕方ないと思うのですがね……。

ちなみに「じゃあお前はどうなんだよ」と言われると、僕も比較的現オーソドックスに近い立ち位置にいると思います。というより僕はアニメも半期に1つか2つくらいしか見ませんし、エロゲやギャルゲといった類もほぼ経験がありません。ただ熱中癖と蒐集癖とロリコン志向はありますから、オタク気質は十分に備えているようですが。

 

 

以下あとがき的に。

この記事を書くにあたってさすがに『わたモテ』やもこっちに関しては多少、本当にかじる程度(本編読んでないし)調べましたが、その限りではこのもこっち、相当嫌なやつです。「さんざん擁護っぽいこと書いといて今さら何を」と言われるかもしれませんが、普通に考えて現実にいたら僕なんかじゃ関係作りようがないですよこりゃ。

ただこういう人とうまい関係を築ける人は知っています。人生で2~3回ほど出会ったことがありますが、情報源として非常に優秀なオタク(もこっちと同じぼっち系です)をある意味で「利用」だけする感じの付き合い方です。「利用」と言うと人聞きは悪いですが、話をするときは大体そのオタクが一方的にしゃべり、その人は単に聞いているだけ。それ以外の話はほとんどしないし一緒にどこかに出かけることもない。その人はオタクを見下しているような素振りもなく、逆に尊敬しているような印象もないが、端から見ると不思議に関係が続いている――といった感じでしょうか、当事者ではないので第三者の印象論でしかないのですが。

きっと情報を聞きたい側と情報を話したい側で利益が一致しているのでしょうね。そこだけ見れば完全にwin-winですから、それ以外の部分、特にオタク側が大部分苦手としているコミュニケーションの部分は、うまいことそのオタクでさえなんとかなる部分だけに集中するよう誘導しているとか。だとすればこれはすごい能力ですね。自分の得意な部分で上手く攻められない相手を、上手くその土俵に載せてあげるっていうのは簡単なことじゃない。

 

さすがに話も脱線してきましたし、今日はこの辺りにしておきましょう。疲れたしお腹すいたし、何よりそろそろ紙とインクが切